誇りが、3センチ特別をつくる。

2026年5月9日

誇りが、3センチ特別をつくる。

#3センチ特別#着付け師#結婚式

先日、結婚披露宴のお客様からご依頼をいただき、ホテルにお邪魔した。 ご新郎様の妹様が手配してくださった、訪問着の着付け。

更衣室に入ると、すでに妹様の着付けが終わり、黒留袖のお母様の着付けが終盤に差し掛かっていた。 「おめでとうございます」とご挨拶。 妹様が、出迎えてくださる。

私がお姉様の着付けを始めるころ、先のお仕事を担当された着付け師さんは、約束のお時間より少し早く、更衣室を出ていかれた。 お姉様の着付けをしながら、お母様の着姿を、横目に。 ん? これで仕上がり?

黒留袖の比翼には、シワが残っている。 二重太鼓のタレと、お太鼓の柄が、合っていなかった。 お顔はどこか沈んでいる。 茶道をたしなんでいらっしゃるというお母様。 「思っていた仕上がりとは、違って」 そう、控えめに打ち明けてくださった。

本来、他の着付け師が手がけたお仕事に、口を挟むものではない。 ケチをつけたり、非難するなど、もってのほか。 ましてや、お直しを申し出るなど、出過ぎた真似でもある。

それでも。

人生にいくつもない、装いの一日。 お写真もたくさんお撮りになる。 お母様の沈んだ表情を、せっかくの祝いの場で、見過ごすわけにはいかなかった。 晴れやかなお気持ちで、式に臨んでいただきたい。

「お時間はあとどれくらいございますか? よろしければ、お姉様の着付けを終えたあと、私でよろしければ、お直しをさせていただきますが」 そう言い終わらないうちに、「ぜひお願いします」とお母様。

比翼をピンと張る、ということ

お姉様の仕上げを終え、お母様へ。 緩んだ衿元を整える。 比翼を、ピンと張る。

鮮やかな袋帯に対して、帯枕が薄すぎた。 即席で、ハンドタオルを巻いて厚みを出す。 お太鼓の柄とタレの柄が、一枚の絵のようにピタリと合った。

続いて、帯枕のガーゼ。 お体の真ん中で結ばれていたため、帯揚げが浮いていた。 一度ほどき、結び目を、ちょうど比翼の位置に合わせて結び直す。 帯の中の奥深くに、沈める。

胸元のシワが、するりと消える。 比翼が、張る。 結び目が肋骨の下にいくため、苦しくもない。

ご親族の皆様が、お母様の着姿を覗かれて「さっきと全然違う!」 お母様も、「こういうふうにしてほしかったんです」と、笑顔に。

妹様、そして、4歳のお嬢様

妹様の着付けも、帯締めが緩く、ずり下がっていた。 結び直す。 左右でばらついていた半衿の出具合を、対称に整える。 あちらこちらのシワを、しごいて落としていく。

そばで、よちよちとお被布を着て歩く4歳のお嬢様。 紐が緩んで、お着物を引きずってしまっていた。 このままでは可哀想。 お腹に薄いタオルを巻き、お着物を着せ直す。

ママさんに「兵児帯か帯揚げ、スカーフなど、ございますか?」とお尋ねすると、ちょうど淡いピンクの兵児帯が衣装ケースに。 拝借して、あらわになっていた紐を、ブーケのように愛らしく巻いて隠す。

「こうしておくと、室内が暑くてお被布を脱がれても、可愛らしい姿でいられますよ」 そうお伝えすると、皆様、喜んでくださった。

1名様のご依頼が、4名様に

結局、1名様のご依頼が、4名様の着付けに。 それでも、清々しい気持ちでホテルを後にした。

お客様の人生の節目を、台無しにしないで送り出すことができた。 その満たされた感覚は、ほかでは得られない。

「これはほんのお礼です」とお心遣いまでいただき、七五三のご予約までお申し付けいただいた。

誇りが、3センチ特別をつくる

着付けは、資格がなくても、勉強を始めたばかりの段階でも、お客様には見抜けない。 だからこそ、プロとして恥ずかしくない志事(仕事)をしなくては。

好循環きものの会に所属する着付け師は、お客様を最高の着姿に整えることに、ひたむきに取り組んでくださっている。 そのことが、もっと多くのお客様に届くように。

資格でも経験年数でもなく、ひとりひとりの着付け師の誇りが、節目の一日を、ほんの3センチだけ、特別にする。

つくづく、そう思った一日。

SHARE

出張着付けのキツケデリ

着付けのご依頼は、

「出張着付けのキツケデリ」にて承っております。着付け師は同じです。