2026年5月8日
単衣のはじまり、6月の3センチ特別。
カレンダーの数字が「6」に変わる頃、暦の上では衣替え。
袷(あわせ)から、単衣(ひとえ)へ。 きものの世界では、月が変わると装いそのものが変わる。
そんな繊細な区切りを、暮らしの中に持つこと。 それ自体が、ちょっと特別な感覚。
単衣とは、裏地のないきもののこと
袷は、表地と裏地を縫い合わせたきもの。 単衣は、裏地のない一枚仕立てのきもの。
装ってみるとはっきり分かる。 あの一枚分の軽さ、風の抜け方、肌に残る涼やかさ。
5月後半から梅雨入りまで、そして9月の残暑の頃。 体感の気温に、装いを合わせていく考え方。
暑くなってきたら、自然と単衣に手が伸びる。 そんな感覚を、自分の中に育てていくこと。
衣替えという日本独自の習慣
6月1日と10月1日。 学校や職場の制服が一斉に変わる、あの日。
知らず知らずのうちに「衣替え」を体に染み込ませてきた日本人。 その感覚を、自分の意思で、自分の暮らしに取り戻す。
毎日着ていなくてもいい。 タンスを開け、夏の素材に手を伸ばし、しまわれていた単衣を引き出してみる。
それだけで、季節の変わり目を「自分のもの」として迎えられる。
いきなりではなく、少しずつ。予感を楽しむ装い
きものの素敵さは、季節を「予感する」こと。
6月から単衣に切り替えるといっても、いきなりすべてを変えるわけではない。 5月の後半から、6月を予感させる小物を、少しずつ装いに取り入れていく。
たとえば、5月後半。 袷の着物を装う際に、先取りで半衿と帯揚げを「絽ちりめん」にしてみる。 帯締めは、しっかりした通年用ではなく、夏用でもなく。 細めの三分紐に、紫陽花色のガラス細工のとんぼ玉を合わせてみる。
それだけで、6月の軽やかな予感を、5月のうちから楽しめる。
衣替えは、ある日突然起きるものではなく、少しずつ近づいていくもの。 6月までのワクワクが、たまらなく愛しい時間。
単衣で行きたい、3センチ特別な日
たとえば、初夏の食事会。 たとえば、6月のお茶のお稽古。 たとえば、紫陽花の咲く街の散歩。
特別な行事ではない。 けれど、いつもの一日に少しだけ装いを変えてみる。
単衣の軽さは、初夏の足取りを軽くする。 裾さばきの軽やかさが、自分の歩みも変えてくれる。
3センチくらい特別な日。 単衣のきものは、その代名詞のような存在。
衣替えは、自分との約束
「いつか着るかもしれない」とタンスにしまっておくのと、 「6月になったら一度袖を通す」と決めておくのとでは、ずいぶん違う。
季節は、ただ通り過ぎていくもの。 でも、自分の暦を持つ人にとっては、ひとつひとつが小さな節目。
6月になったら、単衣に。 それは、誰かに見せるためではなく、自分の感覚を季節に合わせる小さな約束。
衣替えという日本独自の習慣を、もう一度、自分の手の中に取り戻すこと。 3センチくらい特別な6月の、はじまりの一日。